日本酒読本
第22回
春の酒

春酒香し〜こしき倒し
 三月に入ると、酒造りもようやく終盤に入ってきます。やがて酒蔵では、「こしき倒し」が行われます。そうなると今年の造りもいよいよ打ち上げに近いという感じがします。

 ”甑(こしき)”というのは蒸し器のことで、現在でいえば”せいろ”のことだと思えばいいでしょう。酒蔵では大きな釜の上に、木で造ったこしきをのせて米を蒸します。酒の仕込みは、何回かに分けて続けられてきましたが、その年に仕込む最後の蒸米を終えた後、こしきを倒して洗います。これを”こしき倒し”と言って、酒造りの一つの節目です。

 最近は蒸米の作業も機械化されてきて、実際にこしきを使っている蔵も少なくなりましたが、それでも”こしき倒し”の行事は行われ、蔵人こぞってささやかな祝宴をはる蔵が多いようです。

 いろいろな状況の変化で、酒造りも様変わりをしてきています。かつては新酒といえば季語としては秋でしたが、今では冬の季とする俳人もいますし、感覚的には、それも冬の終わり、春の春の始まりと言ったほうがより実際に近いかもしれません。「あらばしり」も新年以降の感じです。「にごり酒」も早春という季節感が似つかわしい気がするのは、桃の節句の"白酒”との連想だけではないようです。

”千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ にごり酒にごれる飲みて 草枕しばし慰む”と、小諸なる古城のほとりで島崎藤村が唄ったのも”緑なすはこべは萌えず、若草にもしくによしない”早春のことでした。
日本酒センター出版/「日本酒歳時記」より

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